Another Magia:01


 ふと目を覚ます。
 朝焼けにはまだ早い時間、薄暗い部屋で少年は横向きに寝返りを打った。
 途端に視界に入る、空色の髪。燃えるように紅い瞳は、安らかに閉ざされていた。
 そうして自身を抱き枕代わりにして隣で眠る兄の顔を眺めたあと、少年……夜は柔らかく笑んで彼に抱きついた。
 一人で寝ると悪夢を見るから、と兄と共に眠るようになって、もう何年も経つ。
 未だに一人で眠ることに慣れないし、何より習慣となってしまったので二人は今も共に寝ている。
 暖かな兄のぬくもりと穏やかな寝息に、夜は肩の力を抜きながら、先程の夢を思い返す。

 遠い世界の出来事。知らない少年たち。
 否……一人は“知っている”のだが。

(……それにしても、精霊魔法ビブリオ・マギアス、か)

 少年たちが使っていたカードと、そこから現れた疑似精霊たち。
 それは間違いなく、夜たちの世界……“ローズライン”の魔術で。
 どこからそのチカラが漏れたのか、なぜ別の異世界……“地球”に“精霊魔法”が存在しているのか。
 現状では、まだわからない。しかし、打てる手は打っておきたいというのが夜の心境だ。

(面倒なことにならないといいけど。
 ……一応、あの子に連絡しておこう……)

 夜はそう内心で独り言ちて、兄にしがみついたまま再び目を閉じる。
 数年前、心を繋いでいた緋色の少年に思いを馳せながら。

 夢の中へ潜り込み、少年へ声を届ける。


 ――ヒア、聞こえる……?――


 +++


 再び寝息を立て始めた弟に、兄……朝はそっとため息を吐く。
 うなされて起きてしまったなら声をかけようと思ったが、どうやらそうではなかったと安堵した。
 けれど、何やら難しい顔をしていた夜は、また何かを抱え込んでいるようで。

「……悪い癖だね、君の」

 夜空のような長い髪の毛をかき分け、穏やかな寝顔を見る。
 そう、昔からの悪い癖だ。夜が一人で何でも背負ってしまうのは。
 朝や仲間たちを信じていないわけではなく、ただ……頼ることに慣れていないだけ。

「起きたら、ちゃんと話してね」

 そう言いながら、朝は弟の頭を抱き寄せた。
 自身の髪と同じ洗髪剤の匂いが、鼻を掠める。

「……愛してるよ、夜」

 兄弟にしては些か重く、行き過ぎた感情。
 それでも二人はそれを良しとした。仲間よりも、誰よりも、一番近い距離。もう一人の自分。
 大切な、家族だから。

 夜の長い髪を一房掬い、軽く口付ける。
 最愛の弟を腕に閉じ込めて、朝もまた、眠りについたのだった。



 Another Magia:01 Fin.