ふと目を覚ます。
朝焼けにはまだ早い時間、薄暗い部屋で少年は横向きに寝返りを打った。
途端に視界に入る、空色の髪。燃えるように紅い瞳は、安らかに閉ざされていた。
そうして自身を抱き枕代わりにして隣で眠る兄の顔を眺めたあと、少年……夜は柔らかく笑んで彼に抱きついた。
一人で寝ると悪夢を見るから、と兄と共に眠るようになって、もう何年も経つ。
未だに一人で眠ることに慣れないし、何より習慣となってしまったので二人は今も共に寝ている。
暖かな兄のぬくもりと穏やかな寝息に、夜は肩の力を抜きながら、先程の夢を思い返す。
遠い世界の出来事。知らない少年たち。
否……一人は“知っている”のだが。
(……それにしても、精霊魔法、か)
少年たちが使っていたカードと、そこから現れた疑似精霊たち。
それは間違いなく、夜たちの世界……“ローズライン”の魔術で。
どこからそのチカラが漏れたのか、なぜ別の異世界……“地球”に“精霊魔法”が存在しているのか。
現状では、まだわからない。しかし、打てる手は打っておきたいというのが夜の心境だ。
(面倒なことにならないといいけど。
……一応、あの子に連絡しておこう……)
夜はそう内心で独り言ちて、兄にしがみついたまま再び目を閉じる。
数年前、心を繋いでいた緋色の少年に思いを馳せながら。
夢の中へ潜り込み、少年へ声を届ける。
――ヒア、聞こえる……?――
+++
再び寝息を立て始めた弟に、兄……朝はそっとため息を吐く。
うなされて起きてしまったなら声をかけようと思ったが、どうやらそうではなかったと安堵した。
けれど、何やら難しい顔をしていた夜は、また何かを抱え込んでいるようで。
「……悪い癖だね、君の」
夜空のような長い髪の毛をかき分け、穏やかな寝顔を見る。
そう、昔からの悪い癖だ。夜が一人で何でも背負ってしまうのは。
朝や仲間たちを信じていないわけではなく、ただ……頼ることに慣れていないだけ。
「起きたら、ちゃんと話してね」
そう言いながら、朝は弟の頭を抱き寄せた。
自身の髪と同じ洗髪剤の匂いが、鼻を掠める。
「……愛してるよ、夜」
兄弟にしては些か重く、行き過ぎた感情。
それでも二人はそれを良しとした。仲間よりも、誰よりも、一番近い距離。もう一人の自分。
大切な、家族だから。
夜の長い髪を一房掬い、軽く口付ける。
最愛の弟を腕に閉じ込めて、朝もまた、眠りについたのだった。
Another Magia:01 Fin.