Another Magia:02


「久々に夢が繋がったと思ったらこれだよ!」

 どん、と食卓を叩いて嘆くオレに、相棒は呆れたような顔ではい、と朝食を手渡してくれた。
 焼きたてのクロワッサンに、ベーコンエッグ。今日も美味そうだ。

「で、なんだっけ? “精霊魔法ビブリオ・マギアス”?」

「そうそう。なんかローズラインのチカラを悪用してるとか、なんとか」

 事の発端は数刻前。文字通り夢の中に現れた先輩から齎された情報を、目の前の相棒に伝えたのだ。

「……まあ確かに、ここ最近異世界ローズラインのチカラを感じるなーとは思ってたけど」

「思ってたのか」

「でも、僕には関係ないし。平穏に生きていたいのに、わざわざ首を突っ込みたくない」

 そう言いながらカフェオレを口に含むソカルに、オレは「うーん」と腕を組んだ。

「でも、心配だよ。夜先輩の話だと、なんか子どもが巻き込まれてるっぽいし」

「……」

 オレの言葉に、ソカルは無言でじっとりとした視線を向ける。
 わかる、わかるぞ。コイツの言いたいことくらいわかる!
 またヒアはそんな問題に首を突っ込もうとして、みたいな目だ!

 しかし、オレとしても引けないのだ。
 久々に“異世界”の【世界樹ユグドラシル】の片翼である青い髪の先輩から連絡が来て、多少浮かれているのは自覚しているが。

「……はあ……わかった。僕が調べてみるから、ヒアは大人しくしてて」

「やったー!」

 にらめっこを征したのは、オレだった。
 折れてくれた相棒に感謝をしつつ、オレは上機嫌でクロワッサンを頬張る。

「ヒア」

 だが、不意に沈んだ声でソカルがオレを呼んだ。

「……僕との平和な日々は、嫌?」

 オレたちは、かつて“異世界”を共に駆け抜けた。
 “天使”や【神】との生死を賭けた戦いを潜り抜けたからか、今の平穏な日々はとてもゆったりしている。
 ……でも。

「……まさか。嫌じゃないよ、平和な日々が大切なことは十分理解してる」

 そんな平穏な日々を、オレは愛している。
 高校を卒業して、大学に進学して、ソカルと二人、この広くはないアパートで暮らす日々を。
 だからこそ。

「……守りたいんだ。この日々を、壊そうとするかもしれない奴らから」

 夜先輩がオレに連絡をしてきた、ということは、遅かれ早かれオレたちもこの“ファンタジア”カードに関する戦いに巻き込まれるのだろう。
 だったら、立ち向かわなければならない。この日々のために。

(もう目を背けないって、決めたから)

「……うん、そっか。そうだね。……嫌なこと聞いて、ごめんね」

「いや……オレの方こそごめんな、ソカル。いつも心配かけちゃってさ」

「いいよ、今更だよ。……でも、今はまだ大人しくしててね」

 ふふ、と微笑んだソカルは、いつも通りで。
 彼からしてみても、やっと手に入れた平穏なのだ。
 何を犠牲にしてもそれを守りたい彼と、守るために戦いたいオレ。
 相容れない二人だけど、それでも。

(側にいたいんだよ、今度こそ)

 温くなったカフェオレが、喉を通り過ぎていった。



 Another Magia:02 Fin.