「久々に夢が繋がったと思ったらこれだよ!」
どん、と食卓を叩いて嘆くオレに、相棒は呆れたような顔ではい、と朝食を手渡してくれた。
焼きたてのクロワッサンに、ベーコンエッグ。今日も美味そうだ。
「で、なんだっけ? “精霊魔法”?」
「そうそう。なんかローズラインのチカラを悪用してるとか、なんとか」
事の発端は数刻前。文字通り夢の中に現れた先輩から齎された情報を、目の前の相棒に伝えたのだ。
「……まあ確かに、ここ最近異世界のチカラを感じるなーとは思ってたけど」
「思ってたのか」
「でも、僕には関係ないし。平穏に生きていたいのに、わざわざ首を突っ込みたくない」
そう言いながらカフェオレを口に含むソカルに、オレは「うーん」と腕を組んだ。
「でも、心配だよ。夜先輩の話だと、なんか子どもが巻き込まれてるっぽいし」
「……」
オレの言葉に、ソカルは無言でじっとりとした視線を向ける。
わかる、わかるぞ。コイツの言いたいことくらいわかる!
またヒアはそんな問題に首を突っ込もうとして、みたいな目だ!
しかし、オレとしても引けないのだ。
久々に“異世界”の【世界樹】の片翼である青い髪の先輩から連絡が来て、多少浮かれているのは自覚しているが。
「……はあ……わかった。僕が調べてみるから、ヒアは大人しくしてて」
「やったー!」
にらめっこを征したのは、オレだった。
折れてくれた相棒に感謝をしつつ、オレは上機嫌でクロワッサンを頬張る。
「ヒア」
だが、不意に沈んだ声でソカルがオレを呼んだ。
「……僕との平和な日々は、嫌?」
オレたちは、かつて“異世界”を共に駆け抜けた。
“天使”や【神】との生死を賭けた戦いを潜り抜けたからか、今の平穏な日々はとてもゆったりしている。
……でも。
「……まさか。嫌じゃないよ、平和な日々が大切なことは十分理解してる」
そんな平穏な日々を、オレは愛している。
高校を卒業して、大学に進学して、ソカルと二人、この広くはないアパートで暮らす日々を。
だからこそ。
「……守りたいんだ。この日々を、壊そうとするかもしれない奴らから」
夜先輩がオレに連絡をしてきた、ということは、遅かれ早かれオレたちもこの“ファンタジア”カードに関する戦いに巻き込まれるのだろう。
だったら、立ち向かわなければならない。この日々のために。
(もう目を背けないって、決めたから)
「……うん、そっか。そうだね。……嫌なこと聞いて、ごめんね」
「いや……オレの方こそごめんな、ソカル。いつも心配かけちゃってさ」
「いいよ、今更だよ。……でも、今はまだ大人しくしててね」
ふふ、と微笑んだソカルは、いつも通りで。
彼からしてみても、やっと手に入れた平穏なのだ。
何を犠牲にしてもそれを守りたい彼と、守るために戦いたいオレ。
相容れない二人だけど、それでも。
(側にいたいんだよ、今度こそ)
温くなったカフェオレが、喉を通り過ぎていった。
Another Magia:02 Fin.